社会的ケア関連QOL ASCOT日本語版

ASCOTとは

ASCOTは、日常生活や社会生活のケア・支援を利用する人やその介護者のQOL(生活の質)を測定するツールです。

なぜ、ケアの利用者や介護者のQOLを把握することが大事なの?

高齢になっても障害をもっても、適切なケア・支援をうけながら地域の中で生き生きと暮らせること――これは、地域で暮らす誰もが望むことではないでしょうか。自治体も、ケア・支援サービスを提供する事業者も、ケアの現場で働く人も、そのために大きな努力を日々しておられます。

さまざまなケア・支援が目指すこと(アウトカム=成果・達成したいこと)は、最終的には人々のQOL(Quality of Life 生活の質)の維持や向上と言えるのではないでしょうか。

それでは、ケアや支援を受けている人たちのQOLは、どうやって「確かめる」ことができるのでしょうか?

QOL(生活の質)を測定するモノサシはあるの?

保健や医療の分野では、健康上の課題や疾病の種類に応じて患者のQOLを測定するモノサシ(「尺度」とも言われます)が各種開発されています。

しかし、福祉や介護の分野(医療的ケアmedical careと対比させて「社会的ケアsocial care」とも言われます)において、日常のケアや社会関係を含む暮らしの支援を利用する人やその介護者のQOLを捉える尺度の開発は、あまり進んでいませんでした。

そうしたなか、先駆的な尺度として国際的に注目されてきたのが、ASCOT(the Adult Social Care Outcomes Toolkit)です。ASCOTはもともと英語で開発されましたが、近年、日本語版が開発されました!ここで紹介するASCOT日本語版は、開発の経緯が国内外の学術誌に査読論文として掲載され、科学的に妥当性が実証されたものです1。原盤の開発者からも正式な日本語版として承認・紹介されています2

ASCOT日本語版を使えば、日本でも、介護や支援を利用されている方やその家族介護者の方のQOL(生活の質)を数字で「見える化」できるようになります。

ASCOTがとらえるQOLの領域

ASCOTでは、ケア・支援を利用する人やその介護者の生活の質を、いくつかの領域から捉えます。各領域に1つの質問が設けられ、ケア・支援を利用する人や介護者は、各領域での自分の状態を自分がどう感じているか、4段階評価で回答します3。その回答結果から、「生活の質(QOL)」の数値が算出されます。

<ケア・支援のサービス利用者のQOL>

8つの領域によりQOLが把握されます4

日常生活のコントロール 日常生活において自分のことを、自分で決められるか
個人の清潔さと快適さ 清潔で見苦しくない身だしなみができているか
飲食 十分な量や食べたいものを、適切な時間にとれているか
個人の安全 虐待や転倒などの恐れがなく安心・安全を感じているか
社会参加と関与 自分が望む人づきあいができているか
有意義な活動 自分の時間を有意義に過ごせているか
居所の清潔さと快適さ 家の中は清潔で快適か
尊厳 ケアや支援を通じて、自分のことを良く思えるようになっているか

<介護者(ケアラー)のQOL>

7つの領域によりQOLが把握されます5

自分の時間 大切なことや楽しめることをしているか
日常生活のコントロール 何をするか、いつするかを自分で決めることができるか
セルフケア 自分を大切にしているか
個々人の安全 ケア役割を安全に遂行できているか(暴力や事故などの危険がないか)
社会参加 自分が望む人とのつきあいがあり、社会的に孤立していないか
自分らしくいられる余裕 自分らしくいられる余裕があるか
支援や励ましを受けているという思い 自分が望む支えや励ましがあるか

ASCOT日本語版の使用を希望する方は、「利用申請(ライセンスの取得)」のページへどうぞ。

 


1 森川美絵・中村裕美・森山葉子・白岩健(2018)「社会的ケア関連QOL尺度the Adult Social Care Outcome Toolkit (ASCOT)に日本語翻訳:言語的妥当性の検討」『保健医療科学』67巻3号, pp.313-321.
Hiromi Nakamura-Thomas, Mie Morikawa, Yoko Moriyama, Takeru Shiroiwa, Makoto Kyougoku, Kamilla Razik, Juliette Malley (2019) “Japanese translation and cross-cultural validation of the Adult Social Care Outcomes Toolkit (ASCOT) in Japanese social service users,” Health and Quality of Life Outcomes, 17(Article number:59).
2 https://www.pssru.ac.uk/ascot/translations/ (アクセス日2021年3月25日)
3 質問が2つある領域も例外的にあります。
4Shiroiwa Takeru, Yoko Moriyama, Hiromi Nakamura-Thomas, Mie Morikawa, Takashi Fukuda, Laurie Batchelder, Eirini Saloniki, Juliette Malley. (2020) “Development of Japanese utility weights for the Adult Social Care Outcomes Toolkit (ASCOT) SCT4,” Quality of Life Research.29(1),253-263. doi: 10.1007/s11136-019-02287-6.
Shiroiwa Takeru, Hiromi Nakamura-Thomas, Mai Yamaguchi, Mie Morikawa, Yoko Moriyama, Takashi Fukuda, Stephen Allan, Juliette Malley.(2022)“Japanese preference weights of the Adult Social Care Outcomes Toolkit for Carers (ASCOT-Carer) “Quality of Life Research.31(7),2143-2151. doi: 10.1007/s11136-021-03076-w.
5 以下の文献を参考に、領域の説明文を作成しました。森川美絵・中村裕美・森山葉子・白岩健(2018)「社会的ケア関連QOL尺度the Adult Social Care Outcome Toolkit (ASCOT)に日本語翻訳:言語的妥当性の検討」『保健医療科学』67巻3号, pp.313-321.
6 以下の文献を参考に、領域の説明文を作成しました。山口麻衣(2019)「ケアラーのQOL・幸福感・生活満足度」ケアラーQOL研究会『ケアラーの生活とQOL:2017年ケアラー調査結果の概要』(研究報告書_No2)、2019年3月31日、pp24-29。(平成28年~31年度科研費基盤研究(B) 16H03715「ケアラーのQOLに焦点を当てた多面的なケアの質評価に基づく包括的ケアモデルの構築」研究代表者:山口麻衣)